僕、おじいちゃんと生きるよ

僕の飼い主は、歯肉癌末期のおじいちゃん。

 

放射線治療を終えて、緩和ケア病棟で最期を迎えるまでの間を自宅で過ごすために退院してきた。

ごはんを食べられないから高カロリーの点滴をして、痛みは麻薬の貼り薬を使ってコントロールしている。

放射線治療の効果は1ヶ月しか持たないと言われた。痛いの辛いのだけは嫌だ、と言っている。

楽しみがないから、と退院してすぐ、僕達を飼い始めた。

 

僕の仲間は全部で40匹いた。

だけど、毎日1匹ずつ死んでいった。

おじいちゃんは、「また死んじゃったよ」と言いながら毎朝死骸を片付け、手帳に僕達の数を書いている。

 

1ヶ月経って、また仲間が増えた。

僕よりひと回り体の大きい金魚達。

 

それでもやっぱり僕の仲間は毎日1匹ずつ死んでいった。

 

僕は初代の仲間の唯一の生き残りだ。

体の大きい奴らは僕をいじめる。

僕の尾びれは奴らに痛めつけられて、ほとんどなくなってしまった。

 

でも僕は頑張って生きるよ。

 

おじいちゃんの生きている姿を最期まで見届けたいんだ。

僕が死んで悲しい顔をするのを見たくない。

 

尾びれがないから、泳ぐのは大変だ。

夜になると、疲れて水面に浮かんでしまう。

おじいちゃんは、「おい、もうダメなのか?」と僕を覗き込む。

でも、朝になってまた頑張って泳いでいると、嬉しい顔をして、毎日来る看護師さんに、「こいつまだ頑張っているよ。」と報告している。

 

だから、僕は頑張って生きるんだ。

 

おじいちゃんと一緒に、最期まで生きるんだ。

 

訪問看護ステーション凛

所長 野上 陽子