「やる気を出せるようにしてください」
彼女の訪問看護の依頼はそこから始まった。
「やりたいと思うことがあるのに、やる気が出なくてできない」
それが自分の人生をダメにしている原因だという。
しかし、訪問を始めてみて、とても重大な症状があることに気づいた。
「過食嘔吐」と「リストカット」
彼女にとって、その二つの行為はあまりにも日常的なものだったので、それが病的な行為であると気づかずにいた。
他にも
「強迫性障害」
「不眠・便秘・尿失禁などの自律神経失調」
「パニック発作」
「幻視・幻覚」
大学病院の精神科や心療内科を転々とし、ついた病名は複数ある。
しかし、訪問を続けるうちに、彼女の症状が「幼少期の母親からの虐待によるPTSD」であることがわかった。
不眠の原因は「いつ母親が怒り出して暴力を振るうかと怯えながら寝ていた」からであり、40年間まともに睡眠が取れないせいで自律神経のバランスが完全に乱れていた。
「お前はだらしない」「お前は汚いからみんなに嫌われてあたりまえ」などの罵声を浴び続けたために、歯磨きがやめられないなどの強迫性障害が出て、何か失敗をするとパニックになってしまう。
母親に対する潜在的な怒りは、突然沸き起こる怒りとなって現れ、通行人や店員とトラブルになる。
心の渇きを満たすために1日10リットルもの水を飲み、心の飢えを満たすために過食し、安心感を得るために吐くことを繰り返す。
新しい自分に生まれ変わるために、嫌なことがあるたび手首を切った。
そして、彼女の心は、「悲しい」「淋しい」といった感情すら自覚できずにいた。
「愛される資格がないから」と、嫌われないように他人の顔色ばかり伺って日々過ごしていた。
彼女に必要な看護は、服薬確認でも生活指導でもなく、
「自分の中で起こっていることを正しく認知できるよう、日々の行動と思いを振り返ること」
「自分の価値を自分で認める気づきを促すこと」
であった。
今、彼女は
「心の飢えと渇きは過食嘔吐や過飲水では満たせない」ことに気付き、過食嘔吐は全くしなくなっている。
「手首を切っても新しい自分に生まれ変わることができない」ことに気付き、リストカットも綺麗サッパリ卒業した。
虐待の中で生きていると生活習慣は身につかない。いつ母親の罵声と暴力が始まるかわからない状況の中では当然だと思う。
だから今、彼女は新たに生活習慣を構築している。ヘルパーさんの介入で、見守られながら部屋の片付けを頑張っている。
毎朝7時には起きて朝日を浴びる。
夜も4〜7時間は熟睡できるようになった。
いつの間にか「肩におじさんの顔が乗っている」という幻視はなくなり、人の気配に怯えることも減少している。
虐待による心の傷は深く、過去を変えることはできない。
しかし、彼女は確実に新しい人生を歩き始めている。
これからも看護の視点で
「自分のために自分らしく生きられるように」
彼女の新しい人生を支えていきたい。
訪問看護ステーション凛
所長 野上 陽子
野上陽子 (月曜日, 22 5月 2017 12:26)
堀内さま
コメントありがとうございます。
人は育つ過程で親などから多かれ少なかれ影響を受けています。
過去にとらわれず、今を大切に生きること、生きて良いのだ!ということ、どうぞ皆さんにお伝えしてくださいね!
応援しています!
野上陽子 (月曜日, 22 5月 2017 12:12)
小林さま
コメントいつもありがとうございます。
はい!焦らずぼちぼち、ですね!
何があっても、人は前向きに生きる力を持っていると私は思っています。
みんなで頑張っていきましょう。
堀内崇 (月曜日, 22 5月 2017 10:10)
素晴らしいです!僕もトリコで苦しんでいる方に伝えてまいります!
小林京子 (日曜日, 21 5月 2017 23:39)
三つ子の魂百まで、、
との言葉を思い出しました。
そして娘達が通っていた園長先生の言葉、、
子供は親の私有物でなく、大切な神の子供!子供はその時期が来れば1つづつ成長していきます。そのために母親がしっかりと生長していきましょう、ゆっくりと自分のペースでと、、
立ち止まり振り替える事が必要な時もありますが、過ぎた事、過ぎた時間はもどりませんもんね。
これからの人生が素敵でhappyでありますように、、焦らずボチボチと、、
ですね!(*^^*)