ある訪問リハビリの利用者さんのお話

 

こんにちは、理学療法士(リハビリ)の南山です。

今回は、悪性リンパ腫から急激な認知機能低下やせん妄を発症した利用者さんのご自宅での生活を支援するために、訪問リハビリを行なったエピソードをご紹介します。

 

がんの治療が困難となったために病院を退院し、自宅で療養される利用者さんを訪問看護ステーションで支援することはしばしばあります。

 

訪問リハビリは、筋力などの心身機能を維持して歩行や起き上がり動作などのADL能力を維持する、本人のQOL(生活の質)の向上や疼痛部位の緩和、ご家族の介護負担の軽減、ご本人がご家族と過ごす時間を増やす、といった目的で行ないます。私ども凛のリハスタッフと訪問看護師、主治医である訪問診療医または病院の医師、ヘルパー、介護支援専門員(ケアマネージャー)、そしてご家族とが緊密な連携をとりながらご自宅での生活を支援していきます。

 

この利用者さん(以降、Sさんとします。)は急激な認知機能低下やせん妄があり、ご家族の介護負担の増大が見られました。

 

認知機能の低下する疾患で代表的なものにアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)があります。物忘れなどの記憶障害や時間の見当識障害が生じ、徐々に言語能力障害(言葉の認識、発語など)、遂行機能障害(計画して実行する能力)などの症状が現れてきます。症状や進行のスピードには個人差があり個々に異なります。

 

Sさんはリハビリ開始時には記憶障害、見当識障害と言語能力障害があり、リハビリの際に手足を一緒に動かしてもらうよう指示をするのですが、言語能力障害により指示の内容を理解することが困難でした。そのため筋力を鍛えるための運動、起き上がる動作や寝返りの動作などにおいて工夫が必要であり、ご本人の体による体性感覚を利用して反復し、簡単な言葉で動作の仕方を伝え、覚えてもらうようご家族にも指導させていただきました。

 

食べたばかりなのに「食事はまだか」と怒り出すこともありました。食事の際は覚醒が悪く時間を要するため、ご家族ですべて介助して口まで持っていってしまう場面は致し方ないことです。しかし、本人に食べる物を目で見てもらい、そこから自分で食べることにより、食べたという記憶が視覚から入力され、食事をしたことが記憶に残りやすい場面がありました。

 

その後覚醒が低下したり、落ち着きがなくなったりすることが多くなったため、薬を服用し目を閉じて寝ていることが多くなりました。そして本来持っている筋力が発揮できなくなり、外出も困難になりました。ご家族はスロープを使用して車椅子で外出ができるよう、玄関の外の外壁を撤去するなどの大掛かりな工事を決断されました。

 

Sさんの記憶については、自宅にいた状態でリハビリ中にSさんの昔の話を質問しても、なかなか思い出すことが困難でした。しかし車椅子で散歩を行なうと、Sさんの高校時代の話を回想法で再現することができました。実際に通学していたその場所に行き、そのときのお話をすることで高校時代の話やそれに付随した他の話も引き出すことができました。翌日以降も自宅内でいろいろなお話ができるようになり、目に見えて効果があったことに対しては、私自身もとても嬉しかったです。

 

その後、朝はなかなか覚醒が悪く起きられないことがあっても、リハビリ時の車椅子での散歩は楽しみにされ、いつも起きて着替えて待ってくれていました。近くの公園で紅葉を観ていると、自らその公園の歴史や地元の話もしてくれました。

 

最後まで “その人らしく” SさんとSさんのご家族の生活の支援を、私ども凛のリハビリ・訪問看護スタッフと主治医である訪問診療医、ヘルパー、介護支援専門員、そしてご家族がチームとなり連携を取ることで実現できたのではないかという一例でした。

 

訪問看護ステーション凛

理学療法士 南山 聡太郎

 

コメント: 0