僕、おじいちゃんの分まで生きるからね

あれから、おじいちゃんの顎の腫瘍は少しずつ大きくなってきて、痛みが強くなるたびに麻薬の貼り薬も増えている。

そしておじいちゃんは、僕達の水槽の前の椅子でうたた寝することが多くなった。

 

ときどき、おじいちゃんは僕達のごはんを入れたかどうか忘れてしまう。

でもおじいちゃんは忘れないように、自分の痛み止めや点滴の電池交換と同じチェック表に、『済』のハンコを押してくれているんだ。

「まだ自分でできるよ、頑張るよ」と看護師さんに言っていた。

 

おじいちゃんの娘さんは、脳腫瘍で亡くなったそうだ。

今は認知症のおばあちゃんと二人暮しだ。

毎日来る看護師さんは、おじいちゃんの点滴や顎の腫瘍の手当てをしながら、おばあちゃんがちゃんと薬を飲んだか、お風呂に入ったか、おばあちゃんにも声をかけている。

おばあちゃんが看護師さんに自分達の若い時の写真を見せたり、戦時中の事やふるさとの話をしたりするのを、おじいちゃんは優しい目で見ている。

 

おじいちゃんは、自分がいなくなった後のおばあちゃんのことをとても心配している。

おばあちゃんも、「私の事は心配しなくても、なるようになるから」と強がっているけど、おじいちゃんが少しずつ弱ってきているのを心配しているのが僕にもわかる。

 

おじいちゃんの90歳の誕生日が近い。

昨晩、おじいちゃんは「 (自分の人生は) 90で終わりだ!」と笑顔で看護師さんに言っていた。

おじいちゃんの主治医の先生も看護師さんもケアマネージャーさんもヘルパーさんも、そのままおばあちゃんをみてくれることになっている。

 

僕の尾びれは、少しだけど生えてきた。

だから僕はもう少し長生きできそうだ。

おじいちゃん、僕はおじいちゃんの分まで生きて、おばあちゃんを見守っていくからね。

 

訪問看護ステーション凛

所長 野上 陽子

 

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